愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
けれど
「坊ちゃん…、お許し、下さいまし…」
罪を知ってる澤は、智に抱き留められたまま詫びるだけで。
純真な弟に、薄汚い…愛憎の営みがあったことを、無言のうちに告げていた。
「…うそ、だ……」
今まで抱いてきた偶像を壊された翔は、その衝撃から立ち上がれずにいた。
「嘘じゃ無い。それに今更…許せと言われても、今の俺には関係の無い事だ」
それが俺にとっては…日常だった
愛慾に塗れた人間が、己の慾を満たす為に…
大切な誰かを泣かせる
耳触りのいい優しい言葉は…
嘘を隠すための隠れ蓑
お前たちが長い年月を掛けて俺に教えたのは…
そういうことだけ
「ただ、捨てられて何年も経ったお前が今頃になってあの男を刺したのか…それだけは聞いておこうじゃないか?」
俺は静かに湧き上がる怒りに震える手で、着物の襟を掴む。
すると
「潤様…っ、そんな乱暴な…!」
「やめてっ、兄さんっ」
慌てた二人は俺の腕にしがみ付いて、澤から遠去けようとする。
「離せ…!この女に肩入れする理由なんか無いだろう⁈」
「申し訳、ございませんっ…、悪いのは澤だけでございます…っ」
しがみ付く弟達を振り払おうとする中、咎められた女は悲鳴のような声で謝罪を繰り返すばかりだった。
聞きたくない…!
偽りの言葉など…もう、いらない!
「そんなものは百も承知、詫びはもう沢山だ…!さっさと理由(わけ)を言えっ」
虚しさと怒りに取り憑かれた俺は、泣き詫びるだけの澤にその矛先を向けることしかできなかった。
何もかもが…怒りの焔を煽っていく。
それなのに、
「兄さんっ、やめて…っ…お願いだからっ」
裏切りを共に受けた筈の翔は、尚も澤を庇おうとする。
「お前は黙っていろ!俺はこの女に聞いてるんだっ」
「そ…それは…、澤が、旦那様をお止めすることが…できなかったから…」
「止めるとは、何をだ⁈」
「…あの日、旦那様はたいそうお怒りの御様子で…夜会からお帰りになられて…」
「もう、昔話はいいと言っただろう!」
もう、自分を止めることができなかった。