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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第12章 以毒制毒


「前に僕に言ったことがあるよね、僕の面差しがその女性に、とても良く似ている、って…」


そう、あの時から僕はずっと思っていた。

澤は僕の母様を知っている、って…


「母様が良く言ってらしたんだ、母様にはとても仲の良い二人の友人がいた、と…。でも母様が父様と結婚したことで、その関係が壊れてしまったと…」

もう朧気になってしまった幼い日の記憶を辿るように、僕は一つ一つ確かめるように言葉を紡いだ。

「その友人の一人が、おれの父様だった…と?」

僕は翔君の問いかけに無言で頷いて見せた。

「ふん、戯けたことを…。仮にお前の話が事実たったとして、それでどうして父上がお前の両親を殺さねばならんのだ。馬鹿馬鹿しいにも程がある…」

潤の言うことは尤もだった。

僕にだって確かな根拠があるわけじゃない。

だからこそ確かめたいんだ、両親がどうして殺されなくてはならなかったのか…

そしてどうして澤は松本を殺さなくてはならなかったのか…


「ねぇ、澤?僕の顔をよく見て?僕達、ここで会うよりも以前に、一度会っているんだよ?覚えてない?」

どれだけ流れても枯れることのない涙に濡れた目を見開き、澤が縄で括られた両手で着物の裾をきゅっと握り締めた。

「あれは確か…そう、母様のお誕生会だった。屋敷の庭には沢山の人が集まっていたっけ…。僕は落ち着きのない子供だったから、庭を駆け回っては、その度に母様を困らせていて…。でもその内小石に躓いて転んでしまって…。その時に手を差し伸べてくれたのが、松本の旦那様の付き人として来ていた、澤…貴方だったんだ」

一つ、また一つ零れ落ちた雫が、膝の上で固く結んだ澤の手の甲に落ちた。

僕はその手に自分の手を重ねると、深い皺を刻んだそれを懐かしむようにそっと撫でた。

「あの時僕を抱いてくれた手は、確かにこの手だった…。僕はこの手の温もりを、忘れたことなどなかった…」


「ああ…、私はなんて愚かなことを…」


僕は泣き崩れる老婆の小さな身体を、両手で抱きとめた。
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