愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第12章 以毒制毒
「兄さん実はおれ達…」
翔君が咄嗟に潤の腕を掴む。
けれどそれはいとも簡単に振り解かれてしまい…
「その話は後だ。今はこの殺人鬼から話を聞かねばならんからな。何故、父を殺さねはならなかったのか、をな…」
“殺人鬼”…
潤の口から吐き出された衝撃的な一言に、僕と翔君は一瞬顔を見合わせた。
確かに澤は、時に厳しくもあったが、“鬼”と称されるような、そんな恐ろしい人間ではなかった筈。
それに潤にとっても、澤はとても重々承知で…時には母親の様な労りを持って接していたのに…
なんて酷い言い草…
「潤坊っちゃま…、どうか後生でございます。このまま澤をどうか…どうか殺して下さいまし…」
澤は覚悟を決めたように瞼を閉じ、丸めた背中をぴんと伸ばした。
「ほう…、殺せと…?ならば望み通りにしてやろうか…」
「駄目っ…!兄さん、やめて?ね?お願いだから…」
すっと立ち上がった潤の足に、翔君が縋り懇願する。
「おれ耐えられないよ…、自分の誕生日に、大切な人を二人も同時に亡くすなんて…、おれには耐えられない…」
両親を目の前で無残にも殺された僕だから分かる翔君の苦しみが、僕の胸をも締め付ける。
でも今の僕には翔君の背中を摩ってやることも出来ず…
どうしたらいい…
どうすれば…
このままでは、潤は本当に澤を殺しかねないし、そうでなくても、主殺しという大罪を犯した澤には重い刑が処されることになる。
その前になんとかしなくては…
気持ちだけが急く中、悶々とした時間だけが悪戯に過ぎて行くのを、僕は頭の片隅でずっとあることを考えていた。
違うかもしれない…
もしかした僕の勝手な想像なのかもしれない。
でももし僕の想像が正しければ澤は…
「ねぇ、澤さん?松本の旦那様が好いた女性というのは、もしや僕の母様のことでは…?そして、僕の両親を殺めたのが、松本の旦那様だと言うことも、貴方は知っていたのでは?」
「それは…どう言う意味だ…」
潤の鋭い、でも驚愕に揺れる視線が、真上から僕に突き刺さった。
でも僕は怯むことなく、言葉を続けた。