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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第12章 以毒制毒


変わり果てたその姿に

「…澤、どうして、あんな事を…?」

おれは智の手を引いたまま、入り口に立ち尽くす。


すると智は先に一歩踏み出すと、繋いでいた手を離して、澤の前に跪く。

「澤さん…、教えて?どうしてあの男を手に掛けたりしたの…?」

嗚咽に震える背中にそっと手を当て、混迷の中にある意識を自分の方に向けようと声を掛けた。


でも澤は駄々を捏ねる子供みたいに頭を振るだけで、言葉を発することはできなくて。

智はその肩を持ち上げながら、顔を覗き込むと

「僕に言ったよね…、やらなきゃならないことがあるって。それは…あの男を殺すことだったってこと…?」

懸命に問いを重ねた。


「それ…どういう事、なの?智は知っていたの…?」


澤がそんな事を言ってたなんて…


「ううん、知らなかった…。ただ潤様の部屋で、最後に澤がそう言った言葉がどうしても気になってた」


一度おれを仰ぎ見た智はそう言うと、再び澤の顔を覗き込んで

「ね…お願いだから、教えて?」

切実な思いを口にする。


おれも一歩、二歩と蹲る老婆へと近づく。

泣き噦り…ひと回り以上小さくなったように見える澤は、おれの知らない人みたいだった。


「澤、泣いてちゃ分からない…。どうして父様にあんなことをしたのか、ちゃんと話してくれないと…、おれ、どうしたらいいのか分からない」

「坊ちゃん、お許し下さい…、どうか澤をひと思いに殺して下さいまし…!」

「何を言ってるの⁈そんなこと…できる訳ない!澤は母様の代わりにおれを育ててくれた人なんだよ⁈おれの…大切な人、なんだ!」

「うぅ…ぅっ、ぼっ、ちゃん…」

「何の理由も無く、父様にあんなことをする訳が無いって…、だからちゃんとおれに…智に解るように話して…!」


気がつけば、おれは澤の両肩を掴んで…泣いていた。

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