第5章 私立リアリン学園!序章
ねじり上げる力が強まって………。
「………痛っ………」
私は、小さな悲鳴を上げる。
「やめろ」
ゼノ様が、低い声で言う。
「しかし………」
真面目君は、つぶやきながらも、私の手首を掴む力を緩める。
私は、腕を強く引いて、真面目君の手から逃れる。
そして、ゼノ様に向き直る。
「何か用か」
「………っ、これ、落としました」
私は、さっき拾った紙を差し出す。
「ああ。これは、俺のだ」
静かに紙を受け取る。
「手荒な真似をしてすまなかったな。痛かっただろう」
ゼノ様が、私の赤く腫れた手首に手を重ねて………。
漆黒の瞳が、深みを増して、じっと私を見ている。
射抜かれてしまいそうなほどの、強い輝き―――。
「あ、だ、大丈夫です………」
私は、慌てて目を逸らす。
「俺の勘違いで………すみませんでした」
真面目君が、深々と頭を下げる。
そして、真面目君が顔を上げ、お互い目が合った時―――。
「なっ………、あなたは、もしや………いえ、なんでもありません」
真面目君が、言いかけてやめる。
え、何?
何を、言いかけたの?
そう思って、もう一度真面目君の顔をよく見る。
あれ、なんか………この人、会ったことがあるような………。
そう感じたけれど………どこで会ったか、とかまったく思い出せなくて―――。
「では、失礼します」
私が考えている間に、真面目君は、また頭を下げて、二人分のコーヒーを受け取ると店を出て行った。
私は、手首に視線を落とす。
真面目君に締めつけられてジンジンとしているけれど、重なった手の温もりが残っているかのようで、甘い痛みを感じる。
ゼノ、様―――。
その響きは、不思議だ。
そう。
名前に、様付けされて呼ばれる人って、なかなかいないから。
真面目君の、あの身のこなし。
あれは、普通の人の動きではない。
ボディーガードと、いったところだろうか。
そうなると。
ゼノ様って、本当に、何者なんだろう………。