第5章 私立リアリン学園!序章
~地図~
あー、危なかった、乗り過ごすとこだった。
私は、心臓がバクバクしているのを鎮めようと、深呼吸を繰り返す。
新幹線の窓の移りゆく景色。
少しずつ夜へと傾く空。
私は、それらをじっと眺めながら、軽い揺れと振動に身をまかせていた―――。
到着した時には、すっかり紺色の夜になっていた。
地図を片手に、旅館を目指す。
そんなに遠くはないはず………そう思って、タクシーに乗らずに歩きだしたけど。
………あれ?そろそろだと思うんだけど。
似たような旅館が立ち並んでいて、私は、ウロウロと歩き回る。
同じ道を何度か歩いた気がする………。
これは、もう、誰かに聞いた方がいいかな。
―――あの人なら、しっかりしてそう。
ちょうど通りすがった人に、声を掛ける。
「すみません、ちょっと道をお聞きしたいのですが」
そう言って声をかけると、その人は、私と一緒に地図を覗きこんでくれて。
「私、今どこにいるんでしょうかね?」
自分でもマヌケな質問だなと思いつつも、私自身がどこにいるのか把握したい。
目印になる建物がなくて、地図を見てもよくわからないのだけど………。
「駅から歩いてきたって言った?」
思っていたよりも近くから、ボソリと、そう呟かれて。
不自然にならないように少しだけ距離をとる。
「あ、はい………」
「地図の見方、反対」
そう言われて、焦る。
「え。じゃ、もしかして、私、全然反対方向歩いてきちゃってる、とか?」
「………いや、一本、道間違えてるだけ………ここ、大通り戻って左にまっすぐ行くとすぐだから」
「よかったぁ」
「………地図、反対に見てるのにちゃんと来てるって………どれだけ方向音痴なんだか」
そう言って、クックッと笑っている。
「………」
私は、なんて返答していいか戸惑う。
笑われては、いるけど………悪気はないみたいだし。
「ほんと変わってる」
もう一度、ポツリとそう呟くと、真顔に戻る彼。
「もう暗いから気をつけて」
「あの、ありがとうございました」
私は、去りゆく彼の後ろ姿に、大きな声でお礼を告げて。
結衣の待つ旅館へと急いだ―――。