第5章 私立リアリン学園!序章
と、背後から低い声が聞こえて、思わず聞き耳を立ててしまう。
「なんで、あんたが来るんだよ」
反対側のホームで新幹線を待っているであろう男の人が、不機嫌そうにそう呟いている。
「かわいい弟の旅立ちを見送りに来るって普通だと思うけど?」
もう一人の人が、明るい声でそう答える。
………兄弟なんだ。
私は、思わずそちらを振り向くと。
小ぶりのボストンバッグを持った弟君は、ムスっとした表情で立っている。
そのすぐ前に、明るい髪色のお兄さんは、対照的な笑顔。
―――見た目は似てないけど。
あ、でも、緋色の瞳が同じだ!
「何」
弟君と、パッと目が合ってしまった。
つい、じっと見過ぎちゃった………。
「あ、あの、せっかくお兄さんが見送りに来てくれたのに、ちょっと言い方が冷たいんじゃないかなって………」
しどろもどろになりながらも、そう言ってしまう。
「あんたに関係ないんだけど」
………やっぱりな、冷たい返答。
「せっかく仲裁に入ってくれたのに、そんな言い方ないんじゃない?」
お兄さんが、なだめるように優しく口をはさむ。
「あんたも関係ない」
容赦ない弟君の一言。
場の雰囲気が、すごく悪くなってしまったと感じて………私は、今さらながら、余計なことを言ってしまったことに後悔する。
「あ、あの、ごめんなさい。ほんと、私、関係ないのに………」
私は、必死で頭を下げる。
「別に謝る必要ない。………旅立ちとか、大げさだから。たかだか三日留守にするだけ」
「え、そうなの?」
私は、顔を上げて、兄弟二人の顔を交互に見る。
「………来てるけど」
「へ?」
「乗んないの?もう発車するけど」
弟君が後ろを指差すので、振り返る。
と。
いつのまにか、私の乗る新幹線が、ホームに来ていて。
出発の合図が鳴り響いていた―――。