第29章 私立リアリン学園!11時間目~イケヴァン・アーサー~
部屋のドアを開けると、途端に窓からの風が、すごい勢いで抜けていった。
うっわ、風の通りが良過ぎるっ。
机の上に置かれた小さな花瓶が横倒しになってしまった。
急いでドアを閉める。
コルクボードのピンが緩んで外れて転がった。そこに留められていたチケットが、ハラリと机の上に落ちた。
………濡れちゃうっ。
そう思った時には、すでに遅くて。
チケットは、花瓶からこぼれた水の上に浸ってしまった。
大変!
アーサーの電話番号が、水に滲んで見えなくなっちゃう!
ヒョイとつまみあげて、無事を確認する。
あ、よかった。セーフ。
チケットに書かれた番号は、しっかり、はっきり、読み取れる。
スマホに登録すればいいんだろうけど、いまだにしていない。
なんでか、簡単に電話できるような状況にしては、いけないような気がして―――。
このチケットが、私とアーサーを引き合わせた。
『雨のせいでインクが滲んじゃっててさー、6が8に見えるんだよね』
私の席は、A-8だった。アーサーと伯爵の席がA-6とA-7で。
インクが滲んで、A-6がA-8に見えたって………。
『ゴメンね、俺の勘違い』
あの時のアーサーの笑顔、何度も思い出しちゃう。
あ、なんか。
やだ。どうしよう。
私、また身体が火照ってきた―――。