第29章 私立リアリン学園!11時間目~イケヴァン・アーサー~
伯爵とアーサーが、この学園に来て数日が経った。
初日はゴタゴタしたけれど、ロベール先生が言ったとおり、トップが変わったからといって何かが大きく変わることはなかった。
すべてが、今までどおりだ。
静かで広い資料室。
古典の新しい資料が届いたので、空き時間に整頓することにした。
ダンボールをよいしょと床に置き、封を開ける。真新しい冊子の匂いがする。
クンクン。
この匂い、好き―――。
ふうっと息をついて、ハンカチで汗を拭う。
入ってすぐエアコンをつけたけれど、この広さじゃ、涼しくなるまで時間がかかりそう。
ゆっくりと棚へと並べていく。
しばらくして、やっとすべての資料を片付け終え、空になったダンボールを折り畳む。
カチャリ。
と、資料室のドアが開く音がした。
誰かが入ってきた。
思わず身体を縮めて、そっと入口を伺う。
この資料室で以前、黒崎に言い寄られたことから、つい、警戒心が強くなってしまっている。
それなのに―――。
ゲッ、黒崎じゃん!
チラッと見えたその姿は、間違いない。
絶っっ対に、顔合わせたくないっ!!
コツコツと靴音を響かせて、こちらに向かって来る。
どうしよう。
とっさに、棚と棚の隙間に入り、しゃがんでダンボールを立てかける。
これで見つかったら最悪!
けれど、黒崎は、棚の少し手前で立ち止まり、周りを見回して、すぐ引き返していった。