第72章 ♑瞳を閉じても(赤葦京治)
相変わらずな治くんが
引き摺られて行くのを
ポカンと見送ってると
「…と、まぁ。
こんな感じで周りが騒がし過ぎて
女子を構う暇なんてありませんから
少しは安心しました?」
目の中に広がる
呆れた様な
少し楽しそうな京治の笑顔に
胸は満たされて
ヤキモチ妬くのも不安になるのも
バカらしくなって
『…うん!大丈夫!
あ、今度は京治が
髪の毛切りに来て?って
まだ切れないけど…
シャンプーだけでもさ!』
「そうですね
たまにはお風呂場以外で
シャンプーして貰おうかな
…あ、もう時間が…」
『うん、頑張って来て
帰ったら美味しいご飯食べようね』
私も笑って手を離した
「はい、じゃあ終わったら
また家で」
『「行ってきます
行ってらっしゃい」』
ポカポカした気持ちで
"行ってきます"のすぐ後で
"ただいま"が楽しみになる
そんな毎日が当たり前だった
今日もいつも通り
"ただいま"を言うはずだった
「姫凪ちゃん!?
今終わり?」
帰り道マッキーに会うまでは。