第20章 動く2
「ことねを餌に、顕如をおびきだすこともできるか……」
一瞬の沈黙の後呟いた俺の言葉に、三成の形の良い眉が上がる。
「光秀様」
「なんだ」
「……お二人の居所が掴めれば、可能かと」
「ほぅ。止めるかと思ったが、お前も随分危ない橋を渡るようになったのだな」
「影さえも見せぬ顕如の尻尾を掴むには、またとない機会になるのは確かですから」
「なるほどな。だが、本気ではないだろ」
「光秀様こそ」
「どうだかな」
互いに視線を合わせるが表情が変わることはなく、糸のような緊張が走る。
先に視線を外したのは三成だった。ふつりと糸が切れ、いつものように三成が微笑む。
「いろは屋が着く頃ですので、急ぎましょう」
「あぁ、珍しい品が届くんだったな」
「はい」
先程の話などなかったように歩く三成に連れられ、皆が待つ座敷へと進む。
「只今戻りました」
襖を開けると御館様をはじめとし、秀吉、政宗、家康、そしていろは屋の番頭の一之助が座していた。庭に面した障子は開け放たれ、薄暗くなった庭にはかがり火が焚かれていた。