第20章 動く2
御館様の前に座り、頭を下げる。
ひいろだけではなくことねも拐かされたとあって、まわりに座る武将らは殺気立っていたが、御館様はいつもと変わらずに、むしろ落ち着いているように見えた。
「戻ったか、光秀。丁度、いろは屋が着く所だ」
「何やら珍しい品が届くと、三成に聞いております」
「随分と手間がかかったらしいからなぁ、イチ」
「はい、お待たせ致しまして申し訳ございません」
隅に座る一之助が、そう言うと静かに頭を下げた。顔を上げた一之助と視線が合う。相変わらず表情のない顔だが、ひいろが拐かされたからだろう、何時にも増してその眼差しが冷たく感じられた。
つなぎだと言っていた女は、番頭に怒られるのが怖いと笑っていた。すべてがこの番頭の指図によるものなのだろうか?あの場所に俺が行くとなぜ思ったのか?考えられるのは………
小さな疑問を口にしようとした時、庭先から音のに気づき目をやると、いろは屋吉右衛門を先頭に酒樽を乗せた荷車が現れた。