第13章 離れる【光秀編】
「イチ、前置きが長すぎるぞ」
御館様が続きを促すように声をかける。
「すいません。つい、細かいことまで伝えたくなってしまいました。では、もう少し手短にお話します。
ひいろの母は名を緑(りょく)と申し、共に生活をしていた家族を亡くし一人になった後、不憫に思った殿様が城に呼ばれ、女中として側においておりました。兄妹という血がそうさせるのか二人の仲は良く、緑も献身的に殿様に仕えていたそうです
何も知らない家臣達は、正室を亡くされた後お飾りのような存在の側室をおいていただけだったため、緑の存在を喜ぶ者もいたようでしたが、それが裏目となりました。
その側室というのが先代の殿様の口利きで、さる家の姫として城へと上がってきたのですが、元を正せば薬種問屋糸野屋の娘で、先代の弱味を利用し入り込んできたようです」
「糸野屋……」
「赤蜘蛛か」
俺が呟くのと同時に、家康もその名を口にする。他の皆の顔にも動きがでる。
「皆様、糸野屋のことについては少なからずご存知のようですね。薬種問屋として盛っておりますが、裏では随分とあこぎな商売をしているようです。」
「詳しくは知らないが、二つ名をもつ糸野屋が娘を嫁がせるとは、何か算段あってのことなのだろうな」
秀吉が少し厳しい顔になり問いかける。