第13章 離れる【光秀編】
「まったく、貴方はいつになっても変わりませんね。お嬢様だけでなく、姫様に対してあのようなことを。お戯れも大概にしてください。お可哀想に」
眼鏡を直しながら一之助が、御館様に向けてそう言うと、秀吉が慌てたように立ち上がる。
「信長様に無礼な!!」
それを御館様が片手を挙げて制する。
「秀吉、かまうな」
「しっ、しかし……」
「かまうな」
「……はい」
渋々と秀吉が座ると、一之助は表情も変えず上座の御館様に対峙するように下座へと座る。武将を左右に、距離をおいて向かい合った二人が互いに軽く頷き合う。それを合図のように御館様は脇息に寄りかかり、一之助は居ずまいを正す。
ふと、場の空気が変わり、何かが始まるということだけがこの場にいるものの共通の意識となった。武将たちの顔つきが変わり、自然と一之助へと視線が集まる。
一之助が静かに頭を下げて戻ると、一呼吸おき、話はじめる。
「秀吉様、先程のこと、お気に障りましたら申し訳ありません。ただ、これから私が話しますことで、なぜそうあるのかということをご理解頂けることと思います。皆様、少々長くなりますがお付き合い頂けますよう、よろしくお願いいたします」
他の者は誰一人、口を挟むことなく沈黙が続く。
「ありがとうございます。では、まずはいろは屋にまつわる昔話から参りましょう」
そう言うと一之助はまた眼鏡を直し、間をあけ話はじめた。