第13章 離れる【光秀編】
襖が閉まり三人の姿が消える。
細い糸のように張っていた緊張感がふつりと消え、ひやりとした静寂が訪れる。
御館様が一人面白そうな顔をする中、誰も口を開かず、ただ座敷の中の空気が少しづつほどけていくのを感じていた。
自分の中で御館様とひいろのやり取りを反芻し、青くちろちろと顔をだしはじめた炎を、深い呼吸と共に消え去れるよう試みる。
一目見ただけでたいして触れてもいないのに、ひいろのその肌を欲するこの俺は、先程の御館様の言葉だけで簡単に心の臓を掴まれて、妙な思いふくらませていた。
もしも、御館様とひいろが……
そうではないと感じるが……
やはり、二人は……
もしそうであったら……
意味もなく考えて、また深めの呼吸を繰り返す。
間をおいて、襖が開き一之助が戻ってくる。
襖の先の座敷には、ことねとひいろの女が二人。
御館様に真っ直ぐに想いを寄せる女と、家康を想いもがき苦しむ女。どちらの女も好ましく、この腕の中に抱きとめたいと思う俺はどれだけ欲が深いのだろう。
そんな思考を止めるように、一之助が大きなため息をつく。