第13章 離れる【光秀編】
「信長様、隣の座敷の支度が整いました」
「そうか、ならばそちらを先にはじめるか」
「おおせのままに」
一之助の言葉を受け、御館様が座敷を見渡す。皆の背筋が延びる。
「光秀の絵を披露する前に、ことね、貴様の絵も描いてもらえ。見知った男と女の絵を並べるのもよいだろう。本物を前にひいろの腕前も良く分かるからな」
御館様の言葉にことねとひいろの表情が固くなる。
「隣の座敷に用意をさせた。すぐに取りかかれ」
一瞬間をおき、ひいろが頭を下げる。
「承知いたしました。姫様の絵を描かせて頂きます」
そう言うとことねへと向き直り、固い表情のまま頭を下げる。
「姫様、信長様からの命にございます。どうぞ隣の座敷にて絵を描かせて下さい」
「えっ、あっ、あの、……はい」
ことねは驚いた顔で座敷を見渡し、御館様の顔を見て観念したように返事をする。
返事を受け一之助がことねを隣の座敷へと導き、その後をひいろが固い表情のまま続き、座敷の中へと消えていった。