第13章 離れる【光秀編】
「いい加減になさいませ」
隣の座敷に続く襖が開き、一之助が現れる。
「お嬢様だけでなく、皆様もお困りですよ」
「困らせているのは貴様の方だ」
御館様の言葉に周りを見ると、静かだった座敷内には驚きの色で溢れており、政宗と三成とことねの三人が一之助を見て口を開いた。
「佐助殿、お久しぶりです。なんだか少し雰囲気が変わりましたね」
「三成、変わったと言うよりも……佐助、急に成長したのか?」
「さっ、佐助くん!? さす……け……くん?に似てるけど……でも違う?」
三人がそれぞれに言葉を発したところで、一之助が綺麗な動作でひいろの隣に座り、眼鏡を直し無表情のまま頭を下げる。
「政宗様、三成様、ことね様、初めてお目にかかります、残念ながら皆様のお知り合いの猿飛佐助様ではございません。いろは屋の番頭でございます。おもに絵の方に関わってございます。以後お見知りおき頂ければ幸いです」
そう言って顔をあげた一之助は、やはり表情の無いままだった。
「この表情のなさはまさに佐助だが、別人なんだな」
「確かによく似てらっしゃいますが、よく見ると番頭さんの方が年上になられるのでしょうか。背丈も大きいように思われます」
「三成くんの言う通りだね。番頭さんは本当に似ているけど、よく見ると佐助くんというより、お兄さんって言われた方がすごく納得できるかも。眼鏡の直しかたとか、動きもなんとなく似てるしね。雰囲気はそのままそっくりだね」
一之助は三人の言葉を涼しい顔で受け、皆さんにそう言われますと軽く答えて御館様の方へと向き直る。