第13章 離れる【光秀編】
「何を仰られているのか、分かりません」
姿勢を正し深呼吸をしてから、真っ直ぐに御館様を見据えてはっきりとした口調で、ひいろはそう言った。
「ほう、そうかあの日のことを忘れたか。話して聞かせてやろう。一つの褥で一緒に寝たであろう、お前から抱きついたままで。おいていくなと泣いてすがったのは、確かにお前であったぞ」
「そっ、そんなこと、知りません」
「一緒に湯につかった話もしてやろうか、お前の身体には……」
「そんな昔のことなど、覚えておりません!」
「ふん、やっと認めおったか。俺にとっては、そう遠い昔ではないぞ」
赤くなってめずらしく大きな声をだし、ひいろが御館様を睨む。が、その瞳にはただの怒りとは違う何かが含まれている気がした。
御館様にもそれが伝わっているのか、面白そうに口角を上げ、目を細めてひいろを見ていた。
そんな二人のやり取りで、昨日見た馴れ合いを思いだし、その訳がここにあるのかと考える。まさかとは思ったが、まったくない話ではない。ただ二人が男女の仲であるということには違和感を覚え、御館様の話した言葉をもう一度思い出す。