第13章 離れる【光秀編】
「ことね、少し黙って」
「あっ、私また余計なこと言っちゃったかな……」
「ひいろは今日初めて登城して、しかも信長さんの前で武将に囲まれ、ことねは織田家の姫様だ。なかなか町の絵師がこういう状況になることはないからね。突然色々言われたら、困るよね。普通に」
「確かにそうだよね。ひいろちゃん、ごめんなさい。困らせるつもりじゃなかったの」
家康の言葉に、素直にことねがひいろへ頭を下げると、慌てたようにひいろが更に深く頭を下げる。
「家康の言うことに一理あるな。少し騒ぎすぎたな。ひいろ、すまなかった」
ことねを諭しながらひいろを気遣う家康を見て、秀吉が嬉しそうに頷き、場をおさめるようにひいろに声をかける。
「皆様、ありがとうございます。また、お気を使わせてしまい申し訳ございません」
その言葉にひいろが答え話が終わろうとしたその時、静かに見ていた御館様が口を開く。
「お前が素直に受けていればよい話だ」
ぴくりと、頭を下げたままのひいろの背中が動く。
「あの頃は、素直で聞き分けのよい女子だったがなぁ」
にやりと笑いながら御館様が言葉を続ける。
「美しいなどと言われれば、素直に喜び頬を染めていたのは誰だ」
ひいろの背中がまたぴくりと動く。
「帰らないで欲しいと、俺の袖を掴み泣いて見せたのはいつであったか。実に素直で可愛いげがあったものよ」
がばりと、一気にひいろが顔を上げる。