第13章 離れる【光秀編】
ひいろの話をしていたはずが、いつの間にかその中心はことねへと移っていく。俺達にとってはいつものことで、大体そこから話がそれていく。それが良い時もあれば、悪い時もある。今日は後者となるのか、ひいろは頭を下げたまま動かずにいる。
場の空気を変えるため俺が口を開こうとすると、ひいろが少し頭をあげ話し出す。
「恐れながら申し上げます。私などの容姿のことで皆様がお気を煩わせることなどございません。美しいとは姫様の為にあるべき言葉かと。ただの町の絵師のことなど、どうぞお気になさらず」
凛とした声が通ると、場が一瞬静まるが、すぐにことねが口を開く。
「煩わしてなんかないよ。ひいろちゃんは本当に綺麗だし、素敵だと思う。…………あっ、ひいろちゃんなんて馴れ馴れしくごめんなさい。いつも画集見てたり、家康とひいろちゃんのこと話してたから、勝手に親近感もってて……私ね、ひいろちゃんと仲良くなりたいなぁと思って」
ことねの口から家康の名前が出た瞬間、ひいろがまとう空気が揺れた気がした。
だが、事情も知らず、ひいろが押し込めた気持ちの揺れにも気づかぬことねは、にこにこと前のめりになりながら話しかける。それを横から家康が、なだめるようにことねの肩に手をのせる。