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ひまわりの咲く夢をみた

第1章 白いキャンバス


「さん…っ」

まだ眠気が飛びきらないというのに揺さぶられ
私を呼ぶ誰かの声に、渋々目を開いた。
まだ焦点の定まらない私は、見たことのない人にまたさんと呼ばれた。

そういえば私って、そんな名前だったっけ。
寝起きだからか録に回らない頭が変なことを考える、自分の名前すら思い出せないとはとんだ笑い種だ。
知らない人は私が目を開けたことにホッと息をついて
無愛想な顔を少しだけ和らげていた。
周囲を見渡せば白い壁に白いシーツ、到底自分の部屋には思えない場所につい眉間に皺を寄せてしまう。
可笑しい、こんな場所で眠った覚えはない、寝る前は何をしていたのだろうか、思い出そうとしたが直ぐに何かが浮かんでくることはなかった。

「あの…ここ」
何処ですか。仕方なく目の前の知らない水色髪をした人へ尋ねるしかなく、私が質問を言い切るよりも先に目の前の人は納得したように頷いて私の言葉を遮った。

「此処は病院です。さんは学校の階段から落ちて一週間ずっと意識を失っていました。そこまでは大丈夫ですか?」
「いえ、あの…覚えてない……です」
私が学校の階段から落ちて……そんなことあっただろうか、思い出そうと考えてみるけれど、ひとつも思い当たらない。一週間も目を覚まさなかったのなら、親も友達もさぞ心配したことだろう。

そこまで考えて、ふと、見知らぬ人が何処か困ったような、不思議そうな、なんとも言えない顔をして私を見ていた。

「どうかしました?」
「その、失礼ですがさんですよね」
そちらが呼んできたのに、何を言っているのだろうか。
確かに私の名前はだ。違和感なんて何処にもない。
「そうですけど」
けれど私の返事に納得しきれないのか相手は訝しげな顔をやめはしなかった。
彼は一体何者なのだろうか。病院の研修生、にしても若すぎる。そもそも研修生にこんなことさせないだろう。
ならば同級生?けれど彼に覚えなんてひとつもない。
「あの、ずっと聞きたかったんですけれどどちらさまでしょうか」

切り出した私の言葉は、場を濁すだけの言葉だったらしい。
余り変化のない顔が、少し歪められ、怒っているのか悲しんでいるのか判断のつかないその人は震えた声で言う。

「……冗談は好きではありません。以前話しましたよね?」

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