第11章 世界にひとつだけの花
【幻想】
どこかで信じてた
彼女と結ばれるのは自分だと
それ以外の未来なんて、考えた事もなかったし
考えられなかった
「どうして…、言ってくれなかったの?」
小さな子供達を寝かせて、静まり返ったホールを片付けながら、
エプロン姿の背中に話しかけた
「……なんのこと?」
振り返った小百合姉ちゃんは首を傾げたけど
ホントは見当ついてたでしょう
……綺麗な瞳が揺れてる
「結婚するって、ホント?」
目を細め、ゆっくりと頷く彼女
聞いてもいないのに、相手の話を、弾んだ声で教えてくれて……
それは、なに?
なにが言いたいの?
「気付いてたよね?俺、……好きだよ、小百合姉ちゃんの事」
哀しげな瞳は何を思う?
幸せになって欲しいと望んでくれたあなたは、何処に行ったの?
僕の幸せは…
あなたにしかないのに?
「私も好きよ?……だけどね、ゆう?」
躊躇いながらも、ハッキリと伝えられた言葉
「それは恋じゃないの」
あの時繋いだ手の温もりは……
もう決して、僕の物にはならないの?
「ごめんね。ゆう」
ひとことそう言って、僕の横をすり抜けた
甘い香りだけを残して……
そして僕は、
いつまでもいつまでも、
あなたの幻影を追い続ける
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