第11章 世界にひとつだけの花
【泣いたっていいんだよ】
川沿いを通り、オレンジ色の夕陽が沈むのを見送りながら
いつか、嘘だらけの紙飛行機を飛ばした事を思い出した
今なら少しは、現実を書く事が出来るかも知れない
すっかり、いつもの帰宅時間を過ぎて心配する僕を
小百合姉ちゃんは、悪戯にふふふと笑う
施設のドアを開けると
妙に静かで、不安になった
だけど
ホールのドアを開けた途端に
パーンと弾けた音がいくつも響いて、
火薬のニオイが部屋に広がり、カラフルな紙吹雪が舞った
目の前の壁には、
『ゆうくん、おたんじょうびおめでとう』
…と書かれた色画用紙に、紙で出来たピンク色の花が、いくつも飾られていた
ビックリして動けない僕の肩に、
小百合姉ちゃんが触れる
背中を押され、大きなチョコレートケーキが置かれた席に座った
「ゆうくん、生まれて来てくれてありがとう」
神父様がそう言って、僕に青い包みを渡してくれた
誕生日なんて、忘れてたよ
丁寧にリボンを解き、包装紙をめくると
茶碗とお箸、コップとパジャマが、キチッと納まってた
「どうしても、ここで使う生活用品になってしまうんだけど。……ゆうくんはずっと、卒園した子のお古だったからね」
プラスチックじゃない、ちゃんとした陶器のカップ
「ゆうくん用だからね」
うん…うん…って、頷いた
僕の物だって、こうしてプレゼントして貰ったのは、生まれて初めてだった
箱ごと抱きしめて
何度も何度も、ありがとうと言葉にした
「ここじゃ贅沢は出来ないけど、ゆうくんの場所はあるんだから。
我慢しないで、甘えたい時にはワガママ言ったっていい
泣きたい時は、ちゃんと泣きなさい」
ポンと触れた神父様の手と
僕より先に泣き出した小百合姉ちゃんの姿
枯れたはずの涙が次々と溢れ……
視界が霞んで見えなくなるくらい、僕は泣いた
わんわん声を上げて
"寂しい"
"抱きしめて欲しい"
押し殺した感情をすべて吐き出して、
しばらく、泣いていた
僕が10歳になった日だった
泣き虫なあなたが
16の頃だ
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