第11章 世界にひとつだけの花
【ヒカリ】
お父さんのイビキが聞こえ始めて…
僕は服を着ると
何も持たず、部屋を出た
冷たい風が体を纏い、一瞬にして体温を奪う
寒い、と感じたけど
それでいいと思った
そのうち、凍えて死ねるなら……それでいい
なのに、
気づいたら僕は
あの場所に立っていた
慈愛に満ちたマリア像が、僕を見下ろしている
この世に神様なんかいないのに……
死んでいいと思いながらも、
どうして僕は、光を求めるのだろう
「ゆう…くん…!?」
ゆっくり顔を上げると、
……お姉さんが駆けより、……僕を抱きしめてくれた
何にも言わないのに、僕の事をわかってるみたいに
強く抱きしめてくれた
恐る恐る、腕を伸ばし、その暖かい背中に触れる
冷たく凍えた指先が、あったまる気がした
「ゆうくん……うちにおいでよ。ね……?」
潤んだ瞳で僕を見つめる
ビー玉みたいに綺麗な色をしてる
「僕……きたない、のに?」
生きてる価値もない、悪い子なのに?
「私ねぇ…、こんなに綺麗な子、初めて見たわ。
出会った時から、思ってた」
僕が……きれい?
生まれて初めて言われた
「おいで」
差し出された手のひらに
縋るように重ねた
伝わる温もりに、すべてを託した
まだ僕は
生きていていいのだろうか
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