第58章 初恋の再会
––桐生side—
『今日の14時に、笠松先輩と屋敷に行くから…
…時間を空けといて。』
思いの外…早い連絡でしたね…
昨夜、お話しした限りでは…気持ちの整理どころか、話すことすらままならない状態と思っていましたが–––––
やはり…笠松様が側にいることが、お嬢様の精神安定剤になっているのかもしれませんね…
そっと受話器を置くと、執事室の窓を開く。
外の新鮮な空気が室内に流れ込み、春の柔らかな風が、室内の静けさを優しく撫でるように通り抜けていく。
「これが……最後の仕事になりますね。」
小さくため息をつくと、自分自身に言い聞かせるようにその言葉を呟いた。
この屋敷では私1人なので、もちろん誰からの返答はない。
最初からわかっていた
真実を告げればより一層傷つけるという事は…
お嬢様は決して…私を許しはしないでしょう
彼女の人生を狂わしてきた…私を許せるはずもない。最初からわかってやってきた事でしたが……なぜ今になってこんなに後悔しているのか…わかりません。
せめて…この屋敷に訪れるまでの数時間…
最後の監視……いえ、警護へと参りましょうか–––
自分の過ちを振り返ってもどうにもならない。
償うことなどできるわけがない…そう結論に至った。