第8章 婚約者。
後退りをする。
分からない事は怖いことだと。
自分の中に説得する言葉も何か考える言葉も浮かばない。真っ白、そう。真っ白だった。
そこで初めて自覚した。
このカカシ様の事を何も知らないのだと。
カカシ単体の事は恐らく理解出来てる、けれど好意を向けたこのカカシ様は誰とも別人で、私とカカシ様の関係もまた、誰とも違う。
初めて、自覚した。
この人は⋯私の中で名前が無い人だと。
サクモさんは私の監視、私は預けられた人。なら、その息子のカカシ様と私の立場は?
どう言う立場なの?
「、人間は、とても勝手なんだよ。それはよく知っているだろ?」
声が出なかった。
「は俺という物差しを何で測っているのかは分からない、けれど、人狼であってもなくても、今俺と向き合っているのはただの女の子で、俺の恋人って言うのは間違いないんだよ。俺はそう思っている」
一つ、何かがはまったような感覚に見舞われた。
「ただ、の、女の子?」
「そう、俺より強い、俺より恐ろしいと言われているのは知っているつもりだよ、けれどね、それとこれとじゃ話しは別だよ。の前では、俺はただの男なんだ」
目が離せなくて、さっきまで優しい瞳で愛していると言ってた人とは思えなくて、胸がドクドクとざわくつ。
「が、沢山経験して変わったなら、俺も同じ、なんだよ」
意味が解らなくて。
何が同じなのか、どう同じなのか。
全く頭がついていかない。
ヒヤリとする廊下。
ジャラリと足元の鎖が音を立てて気が付く、あぁまた私後退りしたんだと。
「知らないふりをしたいならしていていいよ、けれどね。覚えておいて欲しいんだ」
その真っ直ぐで怖いくらいに強い瞳。
「は自分が死んだ世界の俺を考えたことはある?」
ふらりふらりと、バランスを崩して座り込む。
理解できないから怖いと思うのか、カカシ様が怖いのかわからない。
何もわからなさ過ぎて⋯ただ、カカシ様の言葉を頭の中で反響させていた。
「、俺が死んだら君は泣いてくれた?」
怖くて、寒くて、ただ、ただ、思い出す。
旦那様の優しさと、慣れたように思っていた、声や表情を。
この人は今、想像もつかなかった言葉と表情で目の前に佇む。