第1章 泣き虫な子。
私が覚えている記憶。
初めは、そう。
何度振り返っても何度思い出してもあの白銀の頭の男。
震えて毛を逆立てていた。
森の動物に追いかけ回されてなにもかも、怖い。
なのにこの生き物は何故か、私と同じ二足歩行をしていて、布を纏っている。
そんな無防備でどうするの?
追いかけられるわ!
噛みつかれて⋯
でも、この男には誰も近づかなかった。
森の誰も。
そこでやっと気がついた。
この男は誰より強いんだと。
その瞬間から疑問は純粋に恐怖へと変わった。
死にたくない、痛いのは嫌だ。
なんで私ばっかり!
グルルルルッ
喉を鳴らしてみても、彼は優しく、眉を下げて両手を広げていた。
「探したんだよ、君を」
何か言っている。
がさり、男は1歩前に踏み出す。
「探してた⋯⋯油断していたよ、君たちは大きいし、すぐに見つかるだろうってね⋯紫もどこに隠して居たんだか⋯」
やだ、やだやだやだやだ!!!
お願いこっちに来ないで!
また、前に踏み出す。
泣き叫ぶように、喉を鳴らす。
男はぱちくりぱちくりと瞬きをして、自らのカバンを漁り始めた。
そして、取り出したのはいい香りがするものだった。
あまいかおり。
それは、母が時々持ってきてくれたもの。
お腹がすいていて、そのあまいかおりと男を視線が行ったり来たり。
「紫は甘いものが好きだったからね、君もそうみたいだね」
手にもつソレに向かって飛びかかると何かが首に巻き付けられる。
いやだ!いやだ!なに?なに!?なっ、いや!!!
苦しい!やだ、こわい!こわいよ!!!お母さんお父さん!!!
たすけて⋯