第4章 彩花。
「何を言うかと思えば⋯」
「旺季」
「姉上、黙れません。あの娘に妃は無理な話だったのですよ、あの娘は貴方の官吏なのですから」
今じゃ、王の座を狙うものなど皆無。
それは千代が四年かけて潰した結果。
四年かけて仕事をし続けた。
王を守るためだけに、幾千幾万と殺し続けた。
その代償に心をすべて使い果たした。
枯れていた姉上の心を彼女は護り、泣かず笑わず、優しさ一つ残して。
空っぽになった。
愛する人をすべて捨てて愛する心をすべて使い果たした。
ただ一人、玉座に座る男のために。
「旺季、お前がなんと喚こうが俺はあの娘を手放すつもりは無い。」
「⋯⋯貴方は!!」
「愛を望まれないのは、何分気楽なもんでな」
そう言ってちらりと、姉上を見る。
だから嫌いだ。
だから嫌だ。
お前が嫌いなんだ。
千代だって望んでいたんだ。
ちょっとだけ。
望んでいたんだ。お前なんぞに⋯
──────愛される事を。
栗花落は目を細めた。
旺季は黙り唇を噛んでいた。元々情が深い弟だが、飛燕と同じく接し愛していることに。
あの子は優しい。
可笑しいぐらいに愚かで優しい。
それは、自分の身を捨てるという最悪の優しさ。
千代が姿を消した日、言ったんだ。
あの娘を手放し、自由にしたと。
けれどね、戩華。飼われていた鳥は野生では生きていけないんだよ、飼われていたことが喜びで、世界の全てだったんだから。
あの娘は世界を失ったんだ、失っても尚お前のために動いていたのは、愛であり、お前への未練なんだよ。
妃にと言った娘は捨てることに慣れていた。
痛みも、美貌も、感情も、女である事も投げ捨てて、あぁ、正にお前の為だけの官吏だった。
かつて、自分がしていたように、あの子はちゃんと先を先を見て四年動いていた。
言わずとも分かっているように、綺麗にお前の周りを掃除し続けた。
旺季はそれが面白くないんだよ、あの娘の意識をお前は認めない。
私だって認めたくはない、認めてしまえば⋯あの娘をそうさせたのは全て自分になってしまうから。
それがどれほど恐ろしい事か理解できない程馬鹿ではない。
「お前はあの娘を愛しているのか?」
目を丸くする二人。