第4章 彩花。
寝室に運ぶと静蘭と旺季が付き添う。千代が使っていた質素な部屋。
玉華は静かに慣れたように看病をしていた。月がぴっとりと寄り添い手を握っていた。
「⋯ん、んん、だめ、なの」
身体がビクリと跳ね上がり、驚くが動じていない。
「母上、は、病気、なのですか?」
「⋯いいや、違うよ。君の母上はね⋯」
「いけません。話してはなりませんよ」
玉華が制する。
「玉華⋯」
「千代姫様が、必死に生きた証なのです。口外してはなりません。それが許されるのは姫様だけでございます」
「⋯うん、そうだね、そうだよね⋯でも、千代は言わないだろうから、だから、こうなってしまったんだよだから、秘密って事で許してね」
優しい月に玉華はむすっとしていた。すっと、避けると静蘭が駆けつけゆらりゆらり邵可もその後を追う。
玉華は布団を捲り、寝間着を捲る。
袖や裾を。
そして、胸を少しだけ捲る。
そこには、糸のようにぐるぐるに身体中に描かれる呪詛の跡。それは心臓まで蝕み手足の自由どころか身体を乗っ取っていた。
「これは、一体⋯」
「先生、千代姫様は死ねなくなったのですよ。その代わりに死ぬはずだった人の死を受けているのです。」
「死ねない⋯?」
「はい、特にあの王への呪詛や、不調はすべて彼女へとすり変わるのですよ。一人ならまだよかった⋯複数の人の死を受けているのです、人ではもうありません」
眩暈がした。
「どう、して、ですか」
静蘭の呟きに玉華が優しく呟く。
「王様をとてもとても愛しているからですよ、そして、千代姫様寂しがり屋でその人の死を見るのがとてもとても辛く受け止められなかったからです」
「っ~⋯!」
「褒められる行いではありません、けれど、千代姫様が見たかった世界なのですよ。だから、静蘭様、千代姫様の心をたくさんの感情で埋めてあげて下さい。姫様の心はもう何も入っていませんから」
使いすぎた優しさ。
心に残ったのは達成感と、小さな小さな望んだ幸せ。
邵可は思い出していた、悲しげに血を拭い、忘れないでと笑う姉を。
愛していると微笑む姉を。
ただ一人王のため。
「母上の心には何も無いの、か」