第10章 彩稼。
あぁ、蒼姫も、きっとおかしくなっていたのだろう。
蒼姫は、栗花落を母とは呼ばない。
栗花落も蒼姫を娘とは言わない。
劉輝を兄様と柔らかに呼ばなくなり、戩華を父とも呼ばなくなった。
笑わない娘。
ただ、一人。
通うのは白詰草の園。
戩華は一人感慨に浸る。
あの日から何かが無くなったと気付かされた。
人ならざる体温の娘。
嬉しそうに笑っていた。
栗花落に会いに行くと、蒼姫が来ていたらしく寝込んでいる栗花落の手を握っていた。
「栗花落様」
「⋯蒼姫、戩華は⋯悪気は無かったんだ」
「わかっております。父は母を愛していたから私を藍州に行かせたのです」
「⋯⋯当主殿はなんて?」
「⋯⋯私は母には愛されぬと、それでも、御三方は、私も母も愛おしいと仰って下さりました」
「だから、貰ったんだね。あの箱を」
「⋯はい」
「戩華はこう言っていなかったかい?一人に心を奪われたと」
「はい。」
「そう、辛く辛く悲しい時、あの三人の一人に初めて恋をしたんだよ。」
かすれた声。
蒼姫はギュッと栗花落の手をつかむ。
「ですが、その頃には⋯」
「そう、戩華の妻だった。だからね、帰らなくてはならなかった。でも、沢山の辛いことが千代を、追い詰めて追い詰めて、カラカラに心をしていたんだ。三人の優しさがポタリポタリと、心を潤してしまったんだ。」
「⋯⋯父には出来なかったのですね」
頷く栗花落。