第1章 [HQ]やっちゃんと。①
仁花はというと、この機会に救急箱の中の足りなくなったものを買うため、スポーツ店などが揃う少し大きな駅周りに来ていた。
部活の買い出しとはいえ、平日のこんな時間にこっちにくるのはずいぶん久しぶりだ。学生が利用するような飲食店やゲームセンターなどもあるので、前は友達とたまに訪れていたのだが。
すっかり部活漬けになった今の自分を、少し前の自分は信じられないだろう、とふふっと笑ってしまう。
「そっち見た?」
「ううん、全然見当たんないよ~」
「あーんもう、ドコ行っちゃったんだろう、徹くん」
バタバタと白いブレザー姿の女子たちが横を走り去っていく。
(ふおぉ…カワイコちゃんがたくさん…徹くんてアイドルとかの追っかけかなあ~さぞイケメンさんなんだろうな~)
などど女子たちの熱いエネルギーに感心しながら、
どこかで見たことあるような制服だったな、と思った。
(ん~…ドコだっけ?)
「ひえええええぇぇぇぇえ!」
視線を上げて考えていると、グイッと腕を強く引っ張られた。
思ってもみない方向からの力に、反射的に声が出た。
「しーっ、静かにしてて」
頭上から小さな声が聞こえてくるが、目の前が真っ暗で
背中に冷たいコンクリートの感触。
何が何だか全く分からない。
(っな、なになになにぃ!!?襲われる!?カツアゲ!?食われるうううぅぅぅぅぅうう!!!!!)
ガタガタガタと体が震えていると、
「…ふー、やっと行ったかぁ」
先程より少しトーンの高い声と同時に、気配が動くと夕方の自然光が差し込む。
目の前が照らされると、ネクタイと先程の女子たちと同じ配色のシャツとブレザーが見えた。
「ごめんねぇ、烏野のチビマネちゃん」
自分を覆っていた圧迫感から解放され、体の動きを目で追うと、声のする方はかなり上の方からで。
(あれ…このひと…っ)
「だ、大王様あぁ!!」