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~愛ではなく、恋~【ハイキュー‼】

第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)



玄関の引き戸を、綾が開ける。
綺麗に掃除され、
靴箱の上に、小さく花が活けてある。
お香のような和風の香りがして、

この感じ、どっかで…
俺の生活圏ではないよな…

あぁ。
去年の夏、一緒に泊まりに行った旅館。
俺にとって新鮮な宿だったけど、
綾にとっては、家感覚か(笑)

『おかぁさーん。』

綾が声をかけると、
奥から母親らしき女性が出てきた。

綾が、前、言ってた。

『うちの母は、
良妻賢母の見本みたいな人だから』

その言葉通り、
どう見ても
"かあちゃん"という感じではなく。

『初めまして。綾の母です。
いつも綾がお世話になってます。』

穏やかな笑顔と物腰で頭を下げられ、
こちらがビビる。

『いや、あの、烏養です。
こちらこそお世話になってます
…あ、これ、どうぞ。』

綾に相談して買ってきた菓子折りを手渡し、
俺もペコリと頭を下げた。

…多分、すごく、ぎこちない。

『まぁ、お気遣いいただいて…
あら、ここの和菓子は主人の好物!
ありがとうございます。
さ、どうぞ、お上がりください。
綾、和室にお通ししてね。
お父さんには、私が声、かけるから。』

似てる。
綾は今、若いから元気で快活だけど、
きっとあと20年もしたら、母親に似て
気の利く、いい妻、いい母になるはずだ。

『はぁい。ケイ君、こっちね。』

母親に見送られ、
綾について廊下を歩きながら、
足が地面についてないかと思うくらい、
感覚が麻痺していることを自覚する。

多分、
『まぁ、酒でも飲みながら話そう。』
みたいな雰囲気には、まず、ならない。

…ここでは、俺は"異物"だ。

綾が俺のことを
"新鮮で刺激的"と言っていた理由が
今なら、よくわかる…

綾に案内された畳敷きの和室に
ふたりでならんで座って、
俺は、ふーーーーーーーっ…と
長く、息を吐いた。

どうなるかは、わからない。
ただ、ビビッたら負けなのは、分かる。

まるで春高で初めて
オレンジコートに立った時の
アイツらのように、

武者震いなのか
緊張なのかわからない震えを堪えるように
腹に力を入れて、
膝の上の拳を握りしめた。

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