第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
ものごとが動くときというのは
本当に、あっという間で、
思いもよらずプロポーズをしたその次の週末、
俺はいよいよ、綾の家に乗り込むことに
…いや、違うな…
挨拶に行くことになった。
その一週間は
お互いのスケジュールがあわず、
直接会うことは1度も出来なくて、
前日、電話で時間や場所について確認。
『そういや、指輪、見に行けなかったな。』
『急がなくていいよ、
私も、ケイ君のご両親に
ご挨拶してからでいいんじゃない?
先は長いんだから、ゆっくりやろうよ。』
『落ち着いてんなぁ。』
『…ね、ケイ君、
うちの父、割と厳しい人だから、
最初から歓迎ムードとか和やかムードには
ならないかもしれないけど…
そこでへこたれないでね。』
俺の回りで"厳しい人"を思い浮かべてみる。
…んー、誰だろ。
あ、鷲匠監督、厳しめだな。
おっと、それより何より、
うちのジジイが厳しいか。
『大丈夫だよ。
厳しいじぃさん、身近にもいるからさ。』
『そう?ま、うちの父は
じいさん、ほど年はとってないけど(笑)
頑固さは、年寄り並みかもしれないよ?』
『ちゃんと挨拶するんだから、
そんな、心配することねぇって。』
『…うん。家族になるんだもんね。
ここをちゃんとクリアしないと。』
…そんな話をして、電話を切った。
明日、
俺の人生が大きく変わるんだな。
少し、背筋が伸びるような気持ち。
あ、そうだ。
『母ちゃん、白いYシャツ、
アイロンかけといてくんねーか?』
『Yシャツ?いいけど、何の用だい?』
…いちいち説明すんのも面倒だ。
綾を連れてくるときに話そう。
反対なんか、するわけねぇし。
『あ?大事な用事、だよ。
襟んとこ、ピシャーッとしといてな。』
俺だって、いまだに
この展開に驚いてるくらいだ。
親に『彼女の家に挨拶に行く』
…なんて言ったら、
ホントに腰、抜かすかもな。
親だけじゃねぇ。
嶋田や滝ノ上、チームのやつらも。
みんなが驚く顔を想像したら
すっげー、楽しい気分。
でも、そのためにも、まずは、明日。
厳しい父親との初対面をクリアしねぇと。
楽しさはふっ飛び、
身震いが走る。
『…深酒、しないようにしねーとな。』
500のビールを一本だけ飲んで、
その日は、早く寝た。
案外、よく眠れた…この日は。
