第3章 ~痛い、恋 ~ (烏養 繋心)
不思議なものだ。
本当に、その瞬間まで
"結婚"なんて考えてなかったはずなのに
…むしろその話題は避けてたはずなのに…
(勢いとはいえ)
口にしてみると、
途端に、そうすることが
当たり前だったように思えてきて。
『ね、町内会チームのみんなには
まだ秘密にしとかなくちゃダメ?』
『うーん、まだ言わないでおこう。
どーせだったら
最高級にビックリさせよーぜ。
結婚式の招待状で初めて知る、とか。』
『えーっ、あたし、
そこまで内緒に出来るかなぁ?』
『あ、だけど嶋田と滝ノ上には
先に報告するけど。』
『ずるい!じゃ、私も親友には言う!』
とか。
『ケイ君ちにも挨拶に伺わなくちゃ。
お嫁さんに認めてもらえるかな?』
『そりゃもう、ぶったまげるぞ!
こんな若くて可愛くて気が利く嫁が
来てくれるなんて、
すぐには信じてもらえねぇよ、きっと。
オヤジもオフクロも、腰抜かすな。』
とか。
『指輪、欲しい!』
『そうだ、指輪!
いくらくらいするものなんだ?』
『ダイヤの大きさ次第じゃない?』
『…うちの店に売ってる、アレじゃダメか?
ほら、指輪の形してる飴。』
『溶けてなくなるような愛なの?!』
『違う。硬さより甘さ重視(笑)
舐めたいくらい、かわいいってことで。』
とか。
結局、帰るまでずっと二人で
そんなとろけるような話をしてた。
…ホントはずっと結婚したかった綾。
人生で初めて、結婚しようと思った俺。
二人の気持ちがやっと重なったから、
これで新しい関係が始まるんだな。
そう、思っていた。
…結婚は、
二人だけのものではない、ということは
まだ、全然、頭に思い浮かばなかった。
自由気まま、
勝手気ままに生きてきた分、
俺は世間知らずだったんだと、
今なら、わかる。
…そういや、嶋田も滝ノ上も先輩も、
綾とつきあう前の俺に
『結婚するつもりじゃねぇんだろ?』
と言ってた気がする。
なんで彼らは勝手にそう思っていたのか。
それは、
彼らが"俺"という人間と、
そして世間を知っていたから。
何も気付いてないのは、
恋に溺れていた当事者二人だけだったんだ
…と、今なら、わかる。
あの時は、
もう、目の前に別れがきてるなんて、
本当に、
思いもしなかった。