第1章 Linaria~この恋に、気づいて~
「起きたばかりだから何とも言えないが、特に問題は無いでしょう」
体力が回復次第退院して良いでしょう。
そう言ったお医者様は彼を置いて病室から出て行った。
出て行った…って、マジでか!
二人きりになった病室は言わなくても解る通り、微妙な雰囲気に包まれる。私は彼の事を知っているけど、彼は私の事を知らない。そうなると話題なんて一つもないし、仮に私が今日もいい天気ですねって言った所で会話が成立する筈も無い。それに今私の声はお世辞でも綺麗とは言えないし、相手は一応警察の方だ。
何時、ボロが出るか解らない‥‥。
此処は黙っている方が得策かも知れない。
「アンタ…」
私が色々考えていると彼…あぁ、土方さんが私を呼ぶ。
呼ばれたのは良いのだけれど、彼の声は私の中で色々問題があり、あの声で " アンタ " なんて言われたらそのまま死ねる。
私は熱くなる頬を抑えながら彼の方へ向いた。
「っ…俺んとこ、来いよ…」