第1章 闇色夢綺譚~花綴り~
開けたと同時に彼女の声が通る。
障子の向こうの廊下に案の定あの三馬鹿が居た。
あぁ、ダメだ。
顔に出したらダメなのに、永倉新八、藤堂平助、原田左之助が雪村千鶴と私の顔を行ったり来たりする表情が堪らない。
「あわわわっ違うんだ、千鶴っ!」
藤堂平助は顔の前に手を出し、身振りで何かを否定する。
まぁ、一応監視な訳だから此処に居てもおかしくはない。
だか、彼女はそんな事も知る由もない。
どう言う勘違いをしたか分からないが、彼女は頬を膨らまし藤堂平助に向かって女の子の部屋なんですからねと少し怒り気味。
頬をぷぅって、何て可愛いのかしら。
「ばっ、違うって!俺はこいつらに…っていねーしっ!」
後ろを見やると見事に誰も居なかった。藤堂平助は頭を両手で抱え何処行ったと叫ぶ。
そんな彼に私は指を指し、二人が逃げて行った方向を教えてあげた。
「っチックショーっ!!!」
彼はその方向に暴言を吐きながら物凄いスピードで去って行った。
生藤堂平助…。
可愛いなぁ。
「何だったのでしょうか」
雪村千鶴は彼が去って行った方向を見つめ、肩を竦める。
私はそれにさぁ、と返事をする様に首を傾げた。
それから私は布団に戻った。
どれくらい寝ていたのか分からないが、彼女が持って来たお粥の匂いに釣られ私のお腹からくぅ、と音がなる。
私はお腹を抑え彼女を見遣るとクスっと可愛く笑い、温かい内にどうぞとお粥を差し出した。
シンプルな梅干しのお粥は私の胃袋に全て収まり、ついお代わりと言いそうになった。
腹が満たされ、辺りを見渡す。
そして彼女を見遣ると本当に薄桜鬼の世界なのだなと、夢ではなく現実なのだなと思い始めた。
私はお茶碗と匙をお盆に置き、両手を合わせご馳走様をする。
彼女は笑顔でお粗末様と言いお盆を下げる為にその場に立ち、私に話しかけた。
「声が出せない様なので、筆談はいかがでしょうか」
私はそれに対して固まってしまったのは言うまでもない。何故ならば私は現代の人間だ。ミミズが走った様な文字なんてかける訳が無いのだ。
どうしよう。
動揺しているのを必死に隠しながら何て応えようと考えていると雪村千鶴はにっこりと微笑み書く物を持って来ますと言いながら部屋を去って行った。
ま、拙い…。
名前苗字、最大のピンチです。