第1章 闇色夢綺譚~花綴り~
「目が覚められた様ですね、良かった…」
そう言って髪を高い位置に結い上げ、薄桃色の袴を着た可愛らしい女の子が部屋に入って来た。
私は可愛いと呑気に思いながら誰だろうと目で追っていると私の視線に気付いたのか、障子を閉め私の隣に膝を折り、口を開いた。
「あ…私、雪村千鶴と申します」
そんな可愛い女の子がご丁寧に自己紹介をしてくれた。
ああ、私もしなければと佇まいを正し、彼女…雪村さんに向き直り、自己紹介をしようとする。
「!」
しかし、どうした事か私の声は発する事はなく、空を切った。
もう一度自分の名前を言って見るも、私の声は出なかった。
「熱のせいでしょうか…」
彼女は心配そうに私を見つめる。
話を聞くと雪の中、道端に倒れていたそうだ。
まだ、そんなに降り積もっていないのに、全身がびしょ濡れ。
おまけに熱が出ていたので驚いたそうだ。
「土方さんが貴女を見つけて運んで下さいました」
その少し前に私も保護されたんですけどね、と私の額にあった手拭いを絞りながら眉を下げ苦笑いする彼女。
もう少しこのまま休んでいて下さいと言い、彼女は再び手拭いを私の額に乗せ、横にする。
私は素直にそれに従い、彼女にありがとうと伝えた。
伝えたと言っても、私の声は言葉にもならない。
「無理しないで下さい」
何か口に出来る物をお持ちしますねと彼女は可愛らしい笑顔でこの部屋を後にした。
時折強い風が吹き、私が居る部屋の障子をカタカタと揺らす。
今、この場には私しかいない。
だが、感じる気配は一、二…三。
監視だろうか…。
無理もない。
彼女の名前を聞いた瞬間、違う…彼女を見た瞬間に気が付かなくてはいけなかったのだ。
熱に浮かされている場合ではない。
考えろ、考えるんだ。
何故、私は此処に居る。
何故、気配を読み取れる。
声など今は要らない。
雪村千鶴…
そして、ヒジカタ。
結び付くのはただ一つ。
何故、薄桜鬼の世界に、居るのだ…。
過去から過去へ、刻を繋ぐ花。
同じ過ちを繰り返すかの様に、
再び儚い物語に足を踏み入れる。
誰も救えなかった過去はそのまま幕を閉じ、永遠に思い出す事はない。
そして、育まれた全ての愛も忘れる。
花は咲き誇り、咲き乱れ、どの様に散りゆくのか。
それは、神のみぞ知る…。