第1章 闇色夢綺譚~花綴り~
【嘘、無情にも】
「名前さんもご一緒でしたら良かったのに…」
私だけだなんて、申し訳ないです…。
「あぁ、仕方ねーよ。まだ万全じゃあないんだしさぁ」
何か土産でも買って行こうぜ!
そう会話する平助と千鶴ちゃん。
今日は町中が賑やかな日だ。
長州薩摩藩が何やら不穏な動きを見せる中、関係ない奴らは呑気に祭りを楽しむ。
なんて口では堅苦しい事を言いつつ、俺らもちゃっかりと祭りの雰囲気を楽しむ。
「左之さんも早くー!」
少し離れた所で平助が俺を呼ぶ。
その傍らで千鶴ちゃんが可愛らしい笑顔を見せ、俺を急かせる。
「原田さんも、名前さんのお土産選びましょう」
そう言った彼女と平助は色んな出店を見て回る。
俺は正直言うと、心の底からこの雰囲気を楽しむ事が出来なかった。
何故なら屯所を出て来る前だ…。
「原田、時間を稼いで貰いたい」
俺は皆を引き連れた見回りと称されるただの遊びに行く前、土方さんに呼び止められた。
「一番隊と番隊は何時もの見回りだが、オメェらは違う。出来るだけ遅く帰って来い」
この時は全く気付かなかった。
だが、こうして時間が経つに連れ、土方さんが何をしたかったかやっと解った。
そりゃ、そうだ。
俺らが居たらやりにくいだろうし、ましてや総司と斎藤に知れたらどうなるか解らねぇだろうしな。
今更止めてくれと言っても…
「今更だよな…」
俺の呟きは、祭りの賑やかな声により、かき消されて行った。