第1章 闇色夢綺譚~花綴り~
【侵、緩やかに】
原田左之助から手渡されたのは、あの美しい刀だった。
私は首を振りながら自分のではないと左之さんに押し返す。
「…名前ちゃん、だったよな?名前ちゃんがその刀を見た瞬間、君の様子は尋常じゃなかった」
確かに左之さんの言う通りだった。
このコを見た瞬間、知らない筈なのに、早く触れなければ、抱き締めてあげなくてはと思ったんだ。
刀に魂が宿ったみたいに泣きながら私を求めて居たんだ。
触れた瞬間に、このコの感情が流れ込んで来て…。
「だから、きっと名前ちゃんので間違いない」
そう思い返していると左之さんは間違いないと言い、今度はきっちりと握らされた。
だけど、私が所持しても良いのだろうか。
「あぁ…このご時世、何があるか解らない。もし、その様な事になっても直ぐに#名前#ちゃんを助けられるとは限らないし」
まぁ、時間稼ぎと言うか、気休め程度と言うか…。
そう言った左之さんは私の頭に手を置き、微笑みを見せた。
「……」
エロい…。
そうじゃなくて。
左之さんは私を安心させる様に言っていたけど、本当は違うに決まっている。
私は雪村千鶴みたいに共通する事がないし、本当に得体の知れない人物。
それなのに、このコを持たせるなんて…。
きっと、泳がせて自分らに危害が及ばないか監視するつもりなんだ。
「あぁ、名前ちゃん…」
考え込んでいると急に名前を呼ばれ、心臓が跳ね上がった。
そんな動揺を隠しながら私は左之さんに何と言う様に首を傾げる。
「…っ、総司の奴にはあまり近付くなよ、って言っても彼奴から寄って来るんだったな…」
はぁ、と頭を掻きながら溜息を吐く。
本当にどうにかして欲しいのだけれど…。
拒めない…。
結末を、知っているから?
解らないけど、
放って置けない…。
「名前、ちゃん…」
この時、私は左之さんに呼ばれていた事にも気付かない程、沖田総司の事を考えていた。