第1章 闇色夢綺譚~花綴り~
【心、その行方】
「あーあ。泣いちゃった」
そう言った総司は、徐に立ち上がると、彼女の後ろに回った。
「何人の女を泣かせば気が済むんですかね、ウチの副長さんは」
若干意味は違うが確かにと思う所はある。
俺?
俺は皆平等だ。
と、言っておく。
…話は逸れたが、総司は土方さんに喧嘩を売るような事を言い、普段とは違う表情で彼女を包み込む。
そして、その腕は彼女の顔にたどり着き、掌は彼女の美しい瞳に影を作った。
"コレは、僕のだから"
先程、巫山戯た事を抜かした人物とは思えない程、包み込んだ腕は優しかった。
そう思ったのはきっと俺だけじゃない筈だ。
周りを見ると皆、同じく目を丸くさせていた。
勿論、千鶴ちゃんも。
皆が驚いている隙に、総司と彼女はこの部屋から居なくなっていた。
それに気付いたのは暫くしてからだった。
「ったく、総司の奴は…」
静まり返った部屋に響いたのは土方さんの声だった。
「ま、まぁ、良いじゃないか」
総司が珍しく何かに興味を持ったんだ、と近藤さんが土方さんをなだめる。
「近藤さん、素性も解らねぇ輩なのに何を呑気な事を」
そんな言葉を土方さんに返された近藤さんは、ただ笑うしかなかった。
土方さんはそう言っていたが、きっと土方さんも疑ってはいないだろう。
勿論、俺も、皆もだ。
皆、彼女に魅了されたに違いない。
総司とはまた違う澄んだ翡翠の瞳に翡翠に琥珀を乗せた様な髪。
そして、着物から垣間見る白い素肌は雪を思わせる。
俺は土方さんが抱き抱えて連れて来た時、彼女の事を天女かと思ったくらいだ。
「おい、原田」
土方さんが俺を呼ぶ。
どうやら長い時間考えていた様だ。
「ちぃと、頼まれてくれねぇか?」
そう言った土方さんは顎で彼女の物だと思われる刀を指す。
どうやら、刀を渡して泳がせてみると言う事だ。
まぁ…もし、俺らに斬りかかって来たとしても所詮女と男だ。早々やられたりはしないだろう。
「女の扱いは慣れているだろう」
そりゃ、アンタもだろう…と言ってやりたかったが、我慢だ。
「はいはい、仰せのままにっと」
俺は美しい色合いの刀を握り、彼女の部屋へと向かった。