第1章 2人の距離
ボーッと眺めているとスッと脇腹をさすられた。
思わずビクつくとニノさんが手を引っ込めた。
「…見えてました?」
私がそう言うといや…と言って少し考え込み
「フロントってさ。明るいじゃん?…だから、さ。」
会場では大丈夫だと言われ少し安心した。
「…ねえ。いっこ。聞いても良い?」
そう言われて少し俯いていた顔を上げるとニノさんは真剣な表情をしていた
何を聞かれるんだろう。
多分。確信を得るような質問だろうなと感づいた。
「それってさ。……彼氏?」
一気に鳥肌が立つ。
逃げても肯定
否定しても庇っているようにしか見えないこの状況はもう逃れることが出来ない。
「……そ、う。です」
まるで犯罪を認める犯人の気分。
無言になりニノさんのタバコを吸う音しか聞こえない。
暫くするとジュッとタバコを潰して捨て壁に寄りかかりしゃがみながらあの時みたいに私の手を両手で包み込んだ。
そしていつのまにか握り締めていた拳を解くとゆっくり私を引っ張り隣に座らせた。
「これだったらさ。…見えないだろ?」
そう言われたので周りをみるとしゃがんだから丁度足元が見えない作りになっていて完全に私達は隠れている状態。
キョロキョロしている私を見てニノさんはフフッと笑い掴んでいた手を更に引っ張りバランスを崩した私はニノさんに抱きとめられる形になった。
急いで離れようとするとぎゅーっと抱きしめてくる。
あ。ニノさんの香りだ。
ボーッと微睡みそうになった時にハッと大事な事に気付き離れようとするがフフッと笑いながら離してくれない。
「あ、あの!ニノさん!私、彼氏が、「知ってるよ」」
いるから離れて下さい、と言おうとしたら一言であっさり撃沈された。
でもこの状況はかなりマズイ。
なんて言ったってヒロトは鼻が聞くのだ。
仕方ないから正直に言おう。
「私の彼氏。…鼻が聞くんです。犬並みに」
そう言うとへ?と身体を離して来たので咄嗟に距離を開けた
「どういうこと?」
不思議そうに。でも手は離してやらないぞと言わんばかりか手をしっかり握っている。