第1章 2人の距離
暫くするとヒロトの電話口から小さく、「きゃっ」と悲鳴が聞こえた。
そしてヒロトは舌打ちしあぁー。切るわ。と言って一方的に切った。
暫く茫然と今の出来事を考える
ヒロトに女の気配がある事は分かっていた。
それは遊びなのか。
本気なのか。
わからないけど私には止める勇気もなくて。
ただひたすらありのままのヒロトを受け入れるしかなかった。
どうして。
こんな時に涙が溢れるのだろう。
ヒロトの好きだって気持ちと嫌いだって気持ちがごちゃ混ぜになって涙で流れて行く。
そんな時またノック音がした。
今は誰にも会いたくない。
それでも仕事だったら困るから涙を拭いて出来るだけ笑顔で扉を開けた
「…なんて顔してんですか」
また。ニノさんだった。
多分上手く笑えてなくて。
拭ききれなかった涙を指でそっと拭われた。
そしてまた抱きしめられそうになったので後ずさりしてそれを拒否した。
「あ、…あの。ごめんなさい。」
私がそう言うのを聞いて宙に浮いていたニノさんの手は降ろされた
「…。早めだけど。飯のとこ先行くか誘うつもりだったんだけど。時間になったらおいで。」
そう言って去って言った。
パタン。と静かに閉まる扉を見つめながらまた一粒涙が流れた。
慰めてくれようとしたのに。思わず拒否してしまった。
あの微睡みをもう一度味わいたい気持ちが無いわけではなかった。
寧ろ飛び込めるものなら飛び込みたい。
でもそれをしてしまったらヒロトと同じ気がして。
拒否してしまったとき。少しニノさんは傷ついたような、失敗したというような顔をしていた気がする
気の所為かも知れないけれど、どうしてもそう思ってしまう自分がいた。
食事の時間までには涙も収まりとりあえずはいつも通りの笑顔も出せた。
ニノさんは私に対しても普通で櫻井さんと楽しそうに談笑していた。
次の日のメイク中。
「由梨ちゃんってさー。もう立派なメイクさんだよねー。楓さん居なくても。」
櫻井さんが突然褒めてきたので自然に笑顔でお礼を言った
「ていうか仕事ぶりは楓さん匹敵するよ。ハハッ」
楓さんを思い出したのか笑いながら言う櫻井さん
「あとは楓さんの面白発言をクリア出来なきゃ私はまだまだ未熟者ですよ」
そう言うとニノさんも櫻井さんも笑っていた