第1章 2人の距離
「…あ、えっと。……その。」
どう返事したら良いかわからない。
はい。そうです。もおかしいし。
ニノさんはまるで全てを知っていますとも言いたげな顔をして私を見ている。
そんな目を見て余計に寒くなった。
必死に逃げ道を作ろうとあたりをキョロキョロして考えを巡らせていると突然ふわっと何かに包み込まれた。
「由梨ちゃん。…ごめん。なんか俺が虐めてるみたいだな」
どうやら側にあった膝掛けで包み込まれたらしい。
それでも震えが止まらない。
今度は毛布越しに抱きしめられた。
ニノさんに。
ふわっとニノさんの香りがする。
ヒロトにしかされてこなかったことを今簡単にニノさんに上書きされている。
ニノさんの腕の中は怖いほど暖かくて。
例えるなら猫の日向ぼっこ。
そんな気持ちになった。
暫く微睡んでるとだんだん震えも収まりこの状況を改めて振り返った。
ホテルの一室で男と抱き合う。
このフレーズが頭をよぎるとさっきまでの猫気分がいきなり乙女化した。
「あ、あの。」
引き剥がそうと試みるも勿体無いと言う気持ちも少なからずあり戸惑う。
「もう。…寒くない?」
そう言って少しだけ身体を離し覗き込んでくるニノさん
「あ、はい。…お陰様で。」
私の返事を聞くとフッと笑いながら離れ隣に座りなおした。
暫くまた無言の時間。
それを突然破ったのはニノさんだった。
「由梨ってさ。…いーな。サイズが。」
サイズとは?…というか呼び捨て?そんなことが頭をよぎり返事出来ないでいた。
そんな私をみてフフッと笑ってゲームをしているニノさん
その後は特に話す気も部屋に戻る気もないらしくただひたすらゲームしたり、出してあげたお菓子に手をつけたりしていた。
撮影は思いの外順調に行き、日が沈みかける頃には終わっていた。
この後は食事まで自由時間なので部屋に帰ると置いていた携帯に着信履歴が。
中を開くとやっぱりヒロト。
急いで掛け直すとワンコールで出た。
「…由梨。そっち何時?」
そう言った声は寂しげで喉の奥がキュッとなる
「今はね、16時くらいかな。もう直ぐ夕方」
そう言うと、そうか。とため息混じりに答える。