第2章 ~ゆるり、ゆるりと籠の鳥~
【堕ちた先に見えるもの】
この時私は迷うことも躊躇う事も無かった。
私が知りたかったのはただ一つ。
あの夢が何なのか、あのヒトは誰なのか、ただそれだけだった。
「ねぇ、本当に此処で良いの?」
私は連れ出して貰った風魔に聞いてみた。
私は弾正さんに連れ去られたあの時、彼に握らされた物を使って風魔を呼び出した。
そう、特定の忍を呼び寄せる笛を持たされたのだ。
「……………」
話せない風魔は一つ首を縦に振ると私の頬を両手で挟んで来た。
何がしたいのだろう。
本当に風魔の行動が読めない。もちろん、思考も。
今も頬を挟んでうにうに遊んでいる。
何よ、と思って油断しているとほらこうなる。
「!!」
ニヤリ、と唇を一舐めして風の様に去って行った。
「…あの確信犯め」
あぁ、この科白も何度目か。
学習しない私は頭を抱えて項垂れた。
風魔小太郎に僅かながら憎しみを抱いていると私の回りの空気が少しだけ歪んだ気がしたんだ。
「っ!?」
何事と思い辺りを見渡すと暗闇よりもさらに深い暗闇が私に近づいて来るのが分かった。
「ヒッヒッヒッ!他の庭で闇の中の口吸とナァ」
やりよる、ヤリヨル。ヒヒッ!
そう言ったその闇はこの独特な話し方をした。
このような話し方をする人間はこの世にただ一人。
全身を包帯で包み、独特な引き笑いと、白と黒が反転した不思議な瞳を持つ人物。
「大谷、様…」
そう、大谷吉継だ。
彼が此処に居るの訳なのだが、果たしてどちらの場所なのだろう。
大阪城か、それとも佐和山城か。
まぁ、どちらにしても私の寿命は短いわけなのだが…。
そんな事を遠い目をしながら考えていると彼はあの笑いをしながらゆっくりと距離を縮めて来た。
「ワレは首を長くして待っておった故なァ」