第2章 ~ゆるり、ゆるりと籠の鳥~
【籠の鳥はゆるりと堕ちる】
「三成君、大谷君。今日は宜しく頼むよ」
くれぐれも、と半兵衛様は私と刑部に念を押す
「やれ、賢人よ。ワレに任せ」
三成は素直故にナァ、と刑部は私に視線を寄越すと同時にニヤリとする。
半兵衛様の代理で安芸を治める毛利と言う輩と同盟を組む事になっている。
秀吉様率いる我が豊臣軍には必要ないと思うのだが、半兵衛様は念には念をと仰った。
「それに、彼が囲っている人物にも」
興味があるし、ね。
半兵衛様は意味深な言葉を残し、刑部と共に去って行った。
私は半兵衛の仰った毛利元就の囲う人間、私にはその様な者など毛の先程も興味なぞない。もし、その人物が秀吉様や半兵衛様の行く手を遮る輩で有るのならば私は迷わず息の根を止めるであろう。
今は囲う人間などそのような事はどうでも良い。
半兵衛様は毛利との同盟以外に刑部に何の用であったのだろうか。
私に聞かれては拙い事であったのだろうか。
「私は…」
まだ半兵衛様にとって私は役不足なのであろうか。
現にそうだ。
今も私を残し刑部と共にこの部屋を後にした。
私には、何が足りない?
私には、何が出来る?
「私には…」
一人になり卑屈的に考えていると二人が出て行った引戸が再び開き、半兵衛様と刑部が戻って来た。
「待たせたね。じゃあ、宜しく頼んだよ」
そう仰った半兵衛様は私と刑部を残しこの場を後にした。
引き戸が閉まると同時にため息を付く刑部。視線を移すと先程の事を刑部にたずねた。
「刑部、半兵衛様と何を話していた」
二人で去った事を問うと刑部はいつもの怪しげな笑いをするとこう答えた。
「イヤ、土産は何しよと相談してたのよ、ソウダン」
と下らない。私では役不足なのかと思っていたのだが、本当にどうでも良い事であった。
「ヒッヒッヒッ。ヤレ、三成」
参ろうとしよう。
そして、私と刑部は安芸へと向かう。
私の凍てつく心を溶かしたのは貴女でした。