第1章 ふわり、ふわりと夢、うつつ
あの時の真綿のような白い口付けには、何の意味があったのだろう。
何となくこれからの事に繋がって行く、そう思うのは何故だろうか。
しかし、本当に久し振りに見たかも知れない。
この夢を見る時は必ずと言って良い程あの公園なのだけど、今回はちょっと違う。
辺りを見渡すとこれは良く覚えている場所に居たんだ。
これは、あの時の夢の続きになるのかな?
続きと言えば続きなのだろうけど、この部屋、あぁ…私の中学生の時の部屋ね。
其処にいるのだけど、何て言うのかな?
ほら、前はこの夢に入ると徐々に思い出す、そんな感じだったでしょ?
でも、今回は本当に解らないの。
この部屋の事は知っているのだけれど、頭の中には何も映像も流れて来ないし、その欠片もない。
本来なら私はトリップと言う分岐がなければ普通に現代で暮らしていた。
つまりは何事もなければaと言う道に進んでいる事になる。
だけど、何らかの影響でトリップ、これはβとして今現在私はβの道へ。
このβの影響で夢の中、これはαとしよう。
このαは幼い私が居た時。
で、今現在はαの中だけれども、記憶にない新しい物語、それがα+。
早く言えば、原作本を無視して新しい物語を映像として流している、これが本当の今現在の私だ。
私のいる場所は丁度部屋全体が眺められる窓側の角に縫い付けられ動かなくなって居た。
薄いクリーム色の壁紙も、普通の勉強机も、学校の行事で必死になって作ったパッチワークのベッドカバーも全てあの時と一緒だ。
少し懐かしく思っていると下から階段を慌てて上る足音がし、ガチャっと部屋のドアが開く音が響いた。
中学生の私だ。
短い制服のスカートに濃紺のダッフルコート。
コートは学校指定だったけど、なかなか可愛いから好きだった。
水色のチェックのマフラーは当時流行りの物。
外が寒かったのだろうか、鼻が少し赤くなっていた。
彼女が電気のスイッチに手をやると、小さな音と共に部屋に明かりが灯る。
その横に張り付いていたリモコンで暖房を付けると小さな電気音が響き、ファンが回り始めた。
マフラーとコートを脱ぎ、それをハンガーへと掛けてクローゼットにしまう。
そしてわたしは部屋の外へ出て行くと直ぐに誰かを連れて戻って来た。
「…っ!」
あの時の記憶が蘇る。
相変わらず姿は霞んで見えないが、間違いない。
あの人だ。
