第1章 ふわり、ふわりと夢、うつつ
何時もならば自室で日輪を掲げるのだが、今日は行かなければならぬと風が我を誘い、この瀬戸内に足を運んだ。
何時もと変わらぬ美しい風景に穏やかな日輪の光。
我の一日はこの光と共に始まるのだが、今日に限り、一つだけ妙な事があった。
「妙な…空間が微妙に歪んでおる」
何時もと変わらぬ筈なのだが、我が立っている目の前だけ歪んでいたのだ。
言うならば、別空間。
その空間に若干の亀裂が生じ、その向こう側は別の物が見え隠れしていた。
「闇…か?」
我はその闇に触れようと手を伸ばす。
伸ばすと言うよりも、自然に手が伸びていたと言うべきか。
指先がその闇に触れた時、闇とは真逆の眩い光となり我を包んだ。
「つっ!!」
包まれた瞬時に耳鳴りが我を襲う。
やはりこれは罠であったかと武器になる物を手探りで探すも、我の姿は着流しのみ。
武器は生憎自室に置いたままだ。
この闇に飲まれるか…。
否、我は成さねばならぬ事がある。
この、毛利の為に、安芸の為に…。
気を失いそうになるのを堪え、足元の砂を握り締める。
殺傷能力などはないが、目くらまし程度にはなるであろう…。
だが、それは使う事はなく我の手から零れ落ちて行った。
「此処は、何処…?」
闇と光の狭間から現れたのは、
淡い翡翠の色を纏った女、後に名前と名乗る。