第4章 ~くるり、くるりと悠久の輪廻~
【肆】
「やれ、猿よ」
名前ちゃんを庇い、抱きしめていた俺様にさっき祈織にやられてボロボロになった大谷の旦那が近付き話しかけて来た。
「そのままヒナギクを…」
武田の地へと連れて行ってはくれぬか…。
「…」
これは、驚いた…。
籠の鳥の様に愛でていた彼女を手放そうだなんて…。
「俺様は別に良いけど…」
凶王さんみたいに穢しちゃうかもよ?
俺様は名前ちゃんを少しだけキツく抱きしめながら大谷の旦那に向かって話す。
まぁ、それ紛いな事はしたけど。
すると大谷の旦那は白と黒の反転した目を薄らと細め、包帯越しに言った。
「ヌシはまだ…囚われてはいない」
大谷の旦那とは思えない言葉を頂いく。
「ふーん…随分と過大評価だね」
「三成は…見ての通りよ。賢人、徳川を喪った」
俺様は凶王さんの方へ視線を向け、ため息を零す。
「じゃあ、彼女が消えたら尚更なんじゃないの?」
俺様はそう返すと、大谷の旦那はゆっくりと目を伏せた。
「…三成はヒナギクに依存している。此処で放してやらねば賢人が何の為に生命を削ってまでも教え、導いたか解らぬ」
それにナァ…
「今の三成では、ヒナギクに何を仕出かすか…解らぬ」
まぁ、そうだろうね。
俺様は暴れる凶王を見やるとまた一つ溜息を零す。
「ふーん…解った」
「ヒッ…三成の熱が冷めた頃に違う形で武田に参ろう」
後の事は心配は無用。
大谷の旦那はあの独特な笑いで俺を見る。
旦那が言いたい事は直ぐに解った。
「…そう言う事ね」
俺様は名前ちゃんを横抱きにし、振動を与えないように立ち上がり、大谷の旦那を背にしたまま言い放つ。
「あ、そうそう」
うちの旦那、強いから。
「ヒーッヒッヒッ…相、解った…」
俺様の口元が自然と上がったのが解った。
さて、凶王さんにバレる前に急ぎますか。
「良いんですか…刑部さん」
あのまま名前を任せて…。
左近の言いたい事は解る。
だが、あの戦忍はまだ囚われては居らぬ。
「やれ、この事が吉と出るか、凶と出るか…ワレにも、解らぬ」
忍とは、不憫な生き物故に、ソレ以上の事も、ソレ以下の事も出来ぬ…。
「真、不憫よ、フビン」
三成も、ヒナギクも、太閤も、賢人も、左近も、猿も…そして、ワレもなぁ…。