第3章 ~ひらり、ひらりと久遠の破片~
風が強くなる。
勿論、湿った生温い風だ。
あぁ、名前…、名前、名前…。
何度、貴女様に懺悔を繰り返せば良いのか…。
アレは私ではない。
あれはワタシでは、無い。
アレは私では、無い。
ナイ、
ない、
無い…。
" タシカニアレハワタシダッタ "
「三成、早急に戻られよ」
目の前が一瞬にして暗闇に包まれた。
見えない。
聞こえない…。
否、私の脳が刑部の言葉を理解しようとしない。
全てが拒否をする。
「…な!馬鹿な…」
私がおかしくなったのか?
それとも、刑部がおかしいのか。
誰か、
誰でも、良い…。
嘘だと…
言ってくれっ!!
「三成…」
頼む、刑部…。
「嘘を付くな…刑部」
有り得ない
「嘘だと、言え…」
何時もの様に、冗談よ、と…。
「三成…コレが現実よ、ゲンジツ…」
友だと思っていたのは、
私だけだったのか…!
「イエヤスゥゥゥッ!!!」
ワレは怒り狂う三成をただ眺めた。
未だに不穏な風の吹く中、三成が友と思っていた人物の名を叫ぶ声が木霊する。
その時、遠くから三成とワレを呼ぶ声が聞こえた。
アレは、左近か…。
「た、大変っす!三成様!刑部さん!!」
そう言った左近は息を整える為に膝を折りワレに大変、大変と繰り返す。
「ヤレ、左近。三成は今頗る機嫌が…」
「んな事言っている場合じゃないっスよ!」
ワレの言葉に被せるように叫ぶ。
一体どうした事か。
すると左近は未だ整わぬ息使いで言葉を続けた。
ワレは左近の言葉を疑った。
ハァ、何を言うと思えば、つまらぬ、ツマラヌ…。
「ヤレ、左近…ヌシは何時からそんなに嘘付きになった…」
聞こえぬ、キコエヌと自身の耳を塞いでいると左近はワレの両手を掴み耳から手を遠ざけ叫びよった。
「本当ですって!今、近くまで進軍中だっつーの!!」
風が、強くなる。
吹きやまぬ、不穏な風…。
【竹中半兵衛・離反】