第17章 我儘に甘えて(秀吉)
秀吉は、抱きしめていた腕の力を緩めると、
愛の頬に手をやり、顔を自分に向けさせた。
「秀吉さん?」
キョトンと秀吉を見上げる愛。
『はぁ…』
秀吉は小さく溜息をつくと、困ったように眉尻を下げる。
『だったら、すぐにそう言ってくれないか』
「で、でも…」
『遠慮なんかしなくていいんだ。もっと甘えろ』
「でも…お仕事の邪魔しちゃうし…」
『愛になら、いくらでも邪魔されたっていいんだ。
むしろ、邪魔なんて思わない。
それに…辛いときは辛いと言ってほしい。
なんで言わなかったんだ、具合悪かった事…』
家康の話では、心配をかけたくなかったようだ、という事は聞いていたが…
「ごめんなさい…。心配すると思って…」
愛は、それまで見上げていた瞼を、
伏し目がちにして小さく声を出す。
「でも、余計に心配かけちゃったよね」
眼をそらしたままの愛を、もう一度自分に向かせた。
『なぁ、愛?
もっと、俺に心配させてくれないか』
秀吉の言葉に、愛は眼を見開いて驚く。
「どう…して…」
『お前の我儘を聞くのも、お前を心配できるのも、俺の特権なんだ。
他の奴らが知ってて、俺が知らない事がある方が…その…嫌…なんだよ』
いつも余裕の表情をする秀吉が、どこか拗ねているような顔で言う。
『愛の世話を焼く事が俺の生きがいみたいなもんだ。
もし、俺が側にいない時にお前を心細くさせた時は、
次に会った時に目一杯甘やかしたい。
だから、我慢や遠慮はしないでくれないか』